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東京地方裁判所 平成2年(ワ)1191号 判決 1991年3月28日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金五九九万九七八五円及びこれに対する被告円谷光男及び同円谷美代子については平成二年二月二四日から、被告高丸安弘及び同高丸久美子については同年三月六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、無能力者である子供が起こした建物の失火について、子供に対する監督義務を怠ったとして、保険会社が子供の両親に対して保険代位により損害賠償を請求した事件である。

一  当事者等

1  被告円谷光男及び同円谷美代子は円谷悟(当時満一〇歳、小学校四年生。以下「悟」という。)の両親であり、被告高丸安弘及び同高丸久美子は高丸健太(当時満九歳、小学校四年生。以下「健太」という。)の両親である。

悟及び健太は、小松雄志(当時七歳。以下「雄志」という。)と共に、平成元年一月二九日午後五時ころ、有限会社堀工業所所有の武蔵村山市大字三ツ木字八ヶ下八六九番地一所在木造スレート葺平家建居宅工場床面積一一五・七〇平方メートル(以下「本件建物」という。)において、プラスチック製の容器(洗顔器)の中に紙をちぎって入れ、マッチを使って火をつけたところ、本件建物に燃え移り、本件建物が全焼するに至った(以下「本件火事」という。)。

悟及び健太は、マッチを取り扱う場合の注意を怠り、その結果建物が焼失すればどのような法的責任が生じるかについて、当時いずれも十分な弁識能力がなかった(以上について当事者間に争いがない。)。

2  原告は、有限会社堀工業所との間で、同社が所有する本件建物を保険の目的として、店舗総合保険普通保険契約を締結していた保険会社であるが、本件火事によって本件建物が全焼したことにより、堀工業所に対し、本件建物に対する保険金として金五九九万九七八五円を支払った(甲二~四)。

二  本件建物の状況及び本件火事に至る経緯

1  本件建物は、昭和三九年に建築された防火造平家建の作業場併用住宅であるが、昭和五三年ころからは人の居住しない空き家(倉庫)となっていた。本件建物の周囲は、旧農村地帯であり、近年は都市化が進んで住宅、アパート、小店舗などが多く建築されてはいるが、農地が随所に点在している。

本件火事の当時、本件建物は、所有者代表者である堀保男の親族の者などが、業務用の冷蔵庫や厨房製品、美容院のための材料、宣伝用のマッチ、雑誌、家財道具など当面使用しない雑品を置いて物置替わりに使用しており、玄関は施錠されてはいたものの、雨戸を外したりすれば窓などから人が容易に出入りできる状態で、現に浮浪者などが侵入した気配もあり、外観上かなり荒廃していたこともあって、子供達の間では「お化け屋敷」と呼ばれていた(以上について、甲五の3、甲六の2、証人堀、証人内山)。

2  悟は、本件建物のある敷地内で、以前に三、四回遊んだことがあったものの、本件建物の中に入ったのは、本件火事の日が初めてであった。

悟と健太は、本件火事の起きた平成元年一月二九日、朝から健太の家で遊んでいたが、本件火事の起きる三〇分程前に、雄志と共に健太の家から約一〇〇メートルの距離にある本件建物に行き、雨戸の外れていた窓から本件建物の中に入り込み、中で遊んでいた。

そのうち、健太がダンボール箱の中にブックマッチ(二つ折りのポケット用もぎ取り式紙軸マッチ)が多数詰められているのを発見し、二人はそのマッチを使って遊び始めた。健太は、マッチのカバーをちぎって、点火したマッチで火をつけ、これを盆のような物の上に置いたので、悟も同じようにして火をつけた。健太はさらに四~五個のマッチを燃やしたが、すぐに消えるので、そばにあった新聞紙をちぎって盆のような物の上で燃やしたりしていた。他方、悟は、その場にあったプラスチック製の容器(洗顔器)をダンボール箱の上に置き、容器の中に紙をちぎって入れ、マッチを使って容器の中の紙に火をつけた。ところが、右容器の底部が溶けて燃え出し、火はさらにその下にあったダンボール箱に燃え移ってしまった。悟と健太は、ダンボール箱についた火を叩き消そうとしたが、はずみで健太がマッチを燃やしていたお盆のようなものも床に落下し、中で燃えていた紙が火の粉のように散らばり、付近のダンボール箱に燃え移ってしまった。このような経緯で本件建物が全焼するに至ったほか、同じ敷地内の南側にあった同じく堀工業所が所有する空き家の網戸等が焼損した(以上について、甲六の2・3、被告円谷美代子、被告高丸安弘)。

二  争点

1  被告らは、責任無能力者である悟及び健太の起こした本件火事について、監督義務を怠らなかったとして免責されるか。

2  本件建物の焼失により堀工業所の被った損害額。

3  堀工業所には本件建物の管理上の過失があったか。

4  堀工業所は被告らに対する損害賠償請求権を放棄したか。

第三  争点1に対する判断(省略)

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